天国と地獄はなかよし

たこさんのしがない日常。

たかしくんは

たかしくんは60万円です。
たかしくんはトイプードルの男の子。
表参道のペットショップで裕福な夫婦に買われました。
たかしくんとは、数年前に死んでしまった夫妻の息子の名前です。
「たかしみたいに一番優秀なやつを、そう、一番高い犬を。」
そう言われて犬のたかしくんは夫妻に選ばれたのです。

犬の幼稚園、高級なお洋服、本革のリード……。
夫妻はまるで本物の息子かのようにたかしくんを可愛がりました。
でもたかしくんが5歳と少しを過ぎたとき、たかしくんの心臓に先天性の病気が見つかります。たかしくんは昔のように走り回ることはできなくなっていきました。

「もう嫌!毎日毎日こんな姿を見せられて。気が滅入ってしまうわ。」

ある日たかしくんのお母さんはヒステリックに叫びました。
そう、奇しくも息子のたかしくんも心臓の病気でした。
日に日に弱っていく姿を見つめることは、お母さんにとっては辛すぎたのです。

「……新しい飼い主を捜そう。そして、わたしたちは新しいたかしを買えばいじゃないか。」

このお話は別段悲劇的な話ではありません。
たかし君はすみやかに新しい飼い主が見つかり、死ぬまで幸せに暮らしました。なにせ、60万円ですからね。

さて、昔ほどお金のなくなってしまった夫妻は10万円のトイプードルを買いました。新しいたかし君は健康そのもの。元気いっぱいに毎日駆け回っています。

さて、10万円のたかしくんが夫妻に与えた幸福度が、60万円のたかしくんが与えたそれを超えるのは何年後になるでしょうか。