春は夜に来る
オレはワル。深夜の銀座で寿司を食い、高速で帰る。
コンビニの前で降り、缶チューハイを調達して少しだけ歩く。
木蓮が春に向けてスタンバイを始めていた。
真っ白なつぼみがムクムクと膨らんでいく音が聞こえるようだった。
オバケみたいに大きな木蓮を見上げると次に気が付くのは金木犀の香り。
こっちもでかい。自己主張しまくり。
少し昔のことを思い出す。
私の家の前に咲いている金木犀は、あなたの顔をきれいに歪めてくれたね。
ふわっと、くしゃっと。
「いいにおい!」って子供みたいに笑ってた。
もう少しだけ歩く。
雪みたいな何かが頭上に広がる。
桜だ。
桜もまた咲く準備をしている。開花全力待機。
夜空に蕾の白さが際立つ。
これらが咲いたらやばいことになるな~なんて語彙力ゼロの頭で考える。
きみと見たいな~って、思考力ゼロの頭で考える。
きみって誰だろう?そんなこともわかんないまま。
きっと真昼間だったら木蓮にも桜にも気が付かなかったよね。
どちらも光に溶けてしまっていただろう。
真夜中にひとりで帰る金曜日は寂しい。
寂しいけど、手元には酒があるし、頭上には花があるし、まあいいかな。
明日も誰かと会いましょう。
おやすみなさーい!